このレッスンでは、チャットAIが何を得意とし、何を苦手とするかを、動く仕組みから理解します。チャットAIとは、文章で頼むと文章で返す生成AIサービスのことで、ChatGPT・Claude・Geminiがその例です。
なぜ仕組みから入るか。得意と不得意の境目が、仕組みで決まっているからです。 境目を知らずに使うと、下書きは速くなる一方で、事実の照会を任せて間違った数値を資料に載せる、という形で失敗します。
チャットAIは、文章の続きを確率で作る
チャットAIの中身は言語モデルと呼ばれる仕組みで、次に来る言葉を確率で選んで文章を作ります。 言語モデルは、大量の文章から「この言葉の後にはこの言葉が続きやすい」という傾向を学んだものです。
詳しくはOpenAI「Why language models hallucinate」(新しいタブで開きます)をご確認ください。
例えるなら、大量の文章を読み込んだ予測変換です。スマートフォンの予測変換は次の1語を出しますが、言語モデルは次の言葉を選ぶ作業を何百語も続けて、文章として成立する形にします。
| 予測変換 | チャットAI |
|---|---|
| 次の1語を候補に出す | 次の言葉を選び続けて文章にする |
| 短い定型句が得意 | 長い文章の下書き・要約・言い換えが得意 |
| 正しいかどうかは見ていない | 正しいかどうかは見ていない |

この仕組みから、1つの性質が導かれます。 出てくる文章は「もっともらしい」ことが保証されますが、「正しい」ことは保証されません。もっともらしさと正しさは別の物差しで、言語モデルが見ているのは前者だけです。
この性質を、上司に1分で説明できる言葉にしておきましょう。「大量の文章から次の言葉を当てる仕組みで、それらしい文章は作れるが、事実の保証はしない」で足ります。
できることと、できないことを分ける
チャットAIに向くのは「文章の形を変える仕事」、向かないのは「事実を保証する仕事」です。 前者は仕組みそのものが得意とする仕事で、後者は仕組みが扱えない仕事です。
| 向く仕事 | 向かない仕事 |
|---|---|
| 議事録のメモを文章に整える | 取引先の最新の住所を答える |
| 長い報告書を3行に要約する | 売上の合計を計算して保証する |
| 社外向けの文面に言い換える | 社内の事情(誰が担当か、今の方針)を答える |
| 問い合わせを種類ごとに分類する | 法令や規格の条文を正確に引く |
向かない仕事を頼むと、答えが返ってこないのではなく、それらしい答えが返ってきます。 ここが厄介な点です。「分かりません」と言われれば別の手を打てますが、流暢な誤答は気付きにくく、そのまま資料に載ります。
向かない仕事は、チャットAIに「聞く」のではなく、原本を渡して「形を変えてもらう」形に直すと使えます。取引先の住所を聞くのではなく、取引先一覧を渡して宛名の形に整えてもらう、という使い方です。

自部門の業務を1つ思い浮かべ、「形を変える仕事」か「事実を保証する仕事」かを分けてみましょう。
知識には期限がある
チャットAIが学んだ文章には区切りの日付があり、その後の出来事は答えられないか、古いまま答えます。 この区切りを、公式ヘルプでは「知識の期限」(knowledge cutoff)と呼びます。
詳しくはAnthropic Help Center「How up-to-date is Claude's training data?」(新しいタブで開きます)をご確認ください。
言語モデルは、ある時点までに集めた文章で作られます。その後の出来事は学んでいないので、聞かれると「知らない」と答えるか、学んだ範囲から推測して古い答えを返すかのどちらかです。
| 聞くこと | 起きること |
|---|---|
| 昨年度の制度の内容 | 期限の前なら答えられる。改正後なら古い |
| 今月の為替や株価 | 期限の後なので答えられないか、推測になる |
| 自社の今の担当者 | そもそも学んでいない |
期限が何月かは、モデルごとに違い、更新もされます。 本文に日付を書いても数か月で古くなるので、使っているサービスの公式ヘルプで確認してください。
「これはいつ時点の話か」を、チャットAIに聞く前に自分で1度考える習慣を付けましょう。期限の後の話なら、次の節の検索つきの機能を使うか、原本を渡します。
検索つきと検索なしは、何が違うか
検索つきの機能を使うと、チャットAIはWebを検索し、その結果を元に答えを作ります。 ChatGPT・Claude・Geminiのいずれにも、Web検索を使って答える機能があります。知識の期限の後の出来事も、検索で拾える範囲なら答えることが可能です。
詳しくはOpenAI Help Center「Searching the web with ChatGPT」(新しいタブで開きます)、Google「Gemini アプリのプライバシー ハブ」(新しいタブで開きます)、Anthropic Help Center「Enable and use web search」(新しいタブで開きます)をご確認ください。
| 検索なし | 検索つき | |
|---|---|---|
| 答えの材料 | 学習した文章だけ | 学習した文章+検索で見つけた Web ページ |
| 最新の出来事 | 答えられないか古い | 検索で拾えれば答えられる |
やってはいけないことを先に押さえる
このモジュール全体で、やってはいけないことは2つです。 1つは、答えが流暢だからという理由で事実として扱うこと。もう1つは、社内の機微な情報を確かめずに入力することです。
| やってはいけないこと | 代わりにすること | 扱うレッスン |
|---|---|---|
| 流暢な答えを事実として資料に載せる | 数値と固有名詞を一次情報で照合してから載せる | 03 |
| 顧客名・個人名・未公開の数値を入力する | 入力前に3分類し、機微なら書き換える | 02 |
どちらも、仕組みを知っていれば防げる失敗です。 前者は「正しさを保証しない仕組み」から、後者は「入力が事業者のサーバーへ送られる仕組み」から出てきます。
この2つを、部内で最初に共有する2行にしておきましょう。